東京オリンピックが終了し、建設業界では「この先仕事が少なくなるのではないか」と不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。特に中小企業では、いつまで自社が生き残っていけるのか、非常に重要な課題だと思います。
結論から言うと、建設業界では将来的な仕事量の低下や人材不足が問題となり、中小企業では生き残りが難しいと考えられます。したがって、新しいビジネスモデルへの取り組みが必須だと考えられます。
本記事では、建設業が仕事を獲得できない理由をピックアップし、新しく取り組むべきビジネスモデルについてまとめました。20年後も市場で勝ち続けるビジネスモデル事例や、ビジネスモデルの始め方についてお教えします。
建設業が新しいビジネスモデルに取り組むべき理由3つ
まずは建設業にて、なぜ新しいビジネスモデルが必要なのかについて、以下の3点から解説していきます。
- 将来的な建設需要の低下
- 熟練技術者の高齢化
- 労働者・人材不足
1.将来的な建設需要の低下
2020年は東京オリンピックが開催されたこともあり、ここ数年は特需ともいわれるほど、建設工事の需要は拡大傾向にありました。しかしオリンピック開催後は、統計的に建設業の需要低下に陥りやすいと考えられています。
実際に他国では、オリンピック開催年の2〜3年前が建設投資額のピークになっており、日本でも将来的に市場が縮小するといえるでしょう。
もちろん建設工事がすべてなくなるわけではなく、リニア新幹線などの大規模プロジェクトも予定されています。しかし中小企業が大規模プロジェクトに携わる際は、大手建設会社の下請けとして参入するケースが多く、利益率は低くなりがち。
したがって中小企業が安定した経営を行うためには、新しいビジネスモデルによって収入の柱を増やすことが求められます。
2.熟練技術者の高齢化
建設業界は歴史が長く、技術力の高い職人さん・技術者も多くいます。しかし近年では業界全体の高齢化が進んだことで、熟練技術者が現場で活躍できる機会は減少傾向。
また建設業では技術内容が属人的になりやすいため、技術を適切に伝達できないと、会社の成長も止まってしまうといえるでしょう。
このように活かせる技術力・スキルがあっても、会社の成長には若年層への伝達が必須です。そのため会社で培ってきたノウハウが属人的にならず、「マニュアル化によって多くの従業員へ伝達できるビジネスモデル」を構築できるかが、今後市場で生き残るうえで重要になります。
3.労働者・人材不足
建設業界では1997年頃が就業者数のピークといわれており、年々労働者が減少しています。
とくに若年層の従業員不足が業界全体で深刻化し、将来的には「後継者不足」「労働者不足」に陥る建設会社が増加するといえるでしょう。
また労働者不足に陥っている原因として、働き方改革に遅れをとっている点も挙げられます。建設業では昔から3K(汚い・きつい・危険)というイメージが浸透しており、長時間労働が当たり前の風習も少なくありません。
しかし会社の成長を考えるうえでは若年層を軸とした組織形成が求められ、3Kのような厳しいイメージを払拭し、いかに求職者が働きたいと思うビジネスモデルを展開できるかが鍵となるでしょう。
建設業の新しいビジネスモデル事例4選
つづいて建設業のおすすめの新しいビジネスモデル事例4つを紹介していきます。
- DXによる業務のデジタル化
- 建機教習所の開講
- 先進技術を持つ企業への事業投資
- 農業分野への参入
1.DXによる業務のデジタル化
現在、業界を問わずに多くの企業から注目を集めている分野が、「DX化」による業務の効率化です。
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略となり、AI・ビックデータなどのデジタル技術を活用し、日々の業務の効率化や新しいビジネスモデルの変革を行うことです。
建設業では現場で作業を行うケースが多く、肉体的にハードな労働になりやすいといえるでしょう。しかしAIロボットを活用できれば、単純作業や危険が伴う作業の機械化が実現でき、肉体的疲労を軽減できます。
またAIを活用することで技術的なノウハウのマニュアル化も可能となり、後継者不足・熟練技術者の高齢化といった問題解決にもつながります。
2.建機教習所の開講
建機教習所とは、現場作業で求められる知識やスキルを学び、専門資格を取得できる教習所のことです。建設業ではさまざまな種類の仕事が存在しますが、なかには珍しい資格が必要な場合もあります。
「有限会社水越建材」の水越社長は、このようなニッチな資格を「必要なタイミングで取得したい」と考え、新しいビジネスモデルとして、自社で建機教習所を開講。
建設会社ならではの「建機が揃っている・講師を任せられる社員がいる」を活かすことで、イニシャルコストをかけることなく新規事業として収益化に成功しました。
もとは閑散期を軸にスタートしたものの、いまでは粗利率80%超え・FC展開など、順調に事業を拡大している事例です。
参考:「粗利率80%!小さな建設会社が「既得権益」に挑む“脅威的なビジネスモデル”とは?」
3.先進技術を持つ企業への事業投資
近年ではIT分野が成長していることもあり、大手ゼネコンをはじめ、先進技術を持つ企業への事業投資が活発化しています。
例えば3DプリンターやAIの技術力がある企業へ投資をした場合、将来的には建設現場で必要な資材を3Dプリンターで制作し、制作物をAIによって組み立てるといったことが可能になります。
建設業であれば、このような3Dプリンター・AIといった技術を活用することで、少人数の従業員だけで仕事をまわすこともできるでしょう。
またAIに関する分野では、建設業以外の異業種からも人気が高く、いつ大手企業が参入してくるかはわかりません。
そのため会社の規模に関係なく、できるだけ早めに将来性の高い技術・事業へ投資を行うことをおすすめします。
4.農業分野への参入
建設業界の仕事内容といえば、基本的に建物の設計・建築がメインになります。しかし昔から建設業と農業のつながりは深く、建設業者兼農家として働いている方も多いのが特徴。
つながりが深い要因として、建設業・農業のどちらにおいても、年中安定した仕事を確保できないことが挙げられます。
建設業では数ヶ月〜スパンの案件が多く、絶え間なく仕事を受注し続けることは難しいといえるでしょう。
また農業では季節性に左右されるため、収穫時期以外は売上が立たない状態になってしまいます。
そのため建設分野での強みを活かし、自社で建設した広大な土地で農業を始めるなど、両分野を上手に活用した事業展開も新しいビジネスモデルとしておすすめです。
建設業が新しいビジネスモデルを始める流れ
新しいビジネスモデルと聞いて、「とても難しそう…」と感じてしまう方も多いのではないでしょうか。しかし以下の手順で考えることができれば、建設業でも問題なく始められます。
- 事業方針の決定
- 市場調査・自社分析
- 事業計画の立案
- 計画の実行
1.事業方針の決定
新しいビジネスモデルを始めるためには、そもそも「何の事業を行うのか」が重要。そのため自社が取り組む事業概要、事業方針について決めていきましょう。
ビジネスの本質については複数の意見がありますが、基本的には「顧客に向けて何かしらの価値を提供すること」だといえます。
そのため以下の要素を軸に考えると、自然な流れで事業方針を決められるため、思考整理の手段としてもおすすめです。
- 顧客・社会のどのような悩みを解決できるのか
- 事業を行うことで、どのような経済効果が生まれるのか
また最初の段階で事業方針の軸が定まっていると、競合と比較した際も「自社の強み」を表現しやすく、明確なポジションニングが取れます。
2.市場調査・自社分析
事業方針の決定後は、「考えた事業が市場で通用するのか」や「競合他社と比べて負けない要素があるのか」など、市場調査・自社分析を行いましょう。
どんなに素敵なビジネスモデルが浮かんだとしても、市場から求められなければ、事業を拡大することはできません。
そのためまずは、顧客が求めていること・不満に感じていることなど、ニーズとなる要素を考えることが大切です。
具体的には以下の調査方法が挙げられます。
- インタビュー・アンケート
- 口コミ・SNS調査
- 既存顧客への質問
特定の属性だけでは意見が偏ってしまう可能性もあるため、できるだけ多くの人間から意見を聞くようにしましょう。
3.事業計画の立案
事業計画を立てる際は、思考の枠組みが決まっているフレームワークを活用していきましょう。
なぜならフレームワークを用いることで、無駄な情報を省き、事業の軸となる「重要な要素」に絞って考えられるからです。
事業計画におすすめのフレームワークはこちら。
- SWOT分析
- PEST分析
- ファイブフォース分析
- 4C分析
- 4P分析
フレームワークによって、競合他社を軸にした分析もあれば、自社を軸にした分析まで多種多様です。複数のフレームワークを活用することで、普段では見られない新たな発見も生まれるため、ぜひ上記を参考に活用してください。
4.計画の実行
具体的な戦略を立てた後は、事業計画に沿って準備をすすめ、いざ事業を開始していきましょう。
事業プランによっては新しい人材の雇用・採用や、協力会社の募集を行う必要性もあります。そのため適切な手順で計画がすすむように、短期・中期・長期の軸から、余裕を持った取り組みを行うことが重要。
とくに人材採用では、理想とする人材に巡り合えず、時間だけが過ぎてしまうこともあるでしょう。
したがって各フェーズごとに期限を定め、当初の計画通りに事業をすすめることが成功の秘訣です。
建設業の新しいビジネスでは「DX化」がおすすめ
ここまで新しいビジネスモデル事例やはじめかたについて解説してきましたが、建設業では「DX化」に取り組むことがおすすめ。
なぜならほかのビジネスモデルとくらべて取り組みやすく、補助金制度が活用できるなどさまざまなメリットがあるからです。
ここでは「DX化」のなかで取り組むべき施策を4つ解説していきます。
- クラウド
- AI
- BIM/CIM
- ドローン
1.クラウド
DX化のなかで最も取り組みやすいのが、クラウドサービスを活用した業務の効率化です。クラウドサービスとは、データやソフトウェアをネットワーク経由で利用するサービスのことをいいます。
日々の連絡で活用するメールやアプリケーションをはじめ、顧客管理システムや財務会計ソフトなど、世の中にはさまざまなクラウドサービスが存在します。
また近年ではクラウドサービスの導入に伴い、「IT導入補助金」と呼ばれる補助金制度も充実している点が特徴。
「IT導入補助金」ではクラウドサービスに加えて、ホームページ制作などのITツールが導入できるため、集客面で悩まれている方にもおすすめです。
2.AI
AIを活用したDX化では、建設業特有の「危険作業の回避」や「業務の生産性向上」が実現できます。
例えば機械作業を行ううえで、最終的に人の目で判断するケースは多いといえるでしょう。
建設現場であれば細かいミスが命取りとなるため、「すべてを機械任せにできない」と考えてしまいますよね。
しかしAIによって膨大な作業データを蓄積できれば、人間の目で判断するよりも正確に現場状況を分析できます。
したがって業務の自動化や属人化の対処につながり、いままでの作業工数を大幅に削減することができるでしょう。
3.BIM/CIM
ここ数年、建設業で注目を集めている技術が「BIM/CIM」です。
BIM/CIMは「建物情報のモデル化」を意味し、構造物等の形状・構造を3次元モデルで構築することで、設計・施工・管理といった各フェーズの関係者で情報共有ができる取り組みを表します。
従来は2次元の設計図を使用することが一般的となり、実際に施工や管理を行う方への「共有の難しさ」が問題点でした。
しかし3次元モデルは視認性が高く、誰もが簡単にイメージできます。そのため取引先・顧客とのコミュニケーションを円滑にする手段として今後活用される機会が増えるといえるでしょう。
4.ドローン
さまざまな業界で活用されているドローンですが、建設業では測量や点検などの業務で無人機械として利用できます。
例えば高層ビルの点検を行う場合、いままでは人力で危険な作業を行う必要がありました。しかしドローンであれば手軽に点検を行え、危険作業のリスク回避につながるでしょう。
ほかにもAIとドローンを組み合わせたセンサーなど、ほかの最新技術と併用することで、活用の幅を広げられる点も特徴になります。
まとめ
本記事では、建設業が将来的な仕事を獲得できない理由をピックアップし、新しく取り組むべきビジネスモデルについて解説してきました。
建設業では今後需要の低下が考えられるため、まずは取り組みやすい「DX化」からはじめることをおすすめします。なかでもクラウドサービスやITツールは導入しやすい方法となるため、日々の業務効率化から目指していきましょう。