新たな製品を売り出すときには、どのような戦略を立てたら良いのか悩むことはありませんか。戦略を立案するときには、自社の優位性を活かして競合と差別化すれば、効果的です。しかし、自社の強みを把握していなかったり、他社との優位性を見逃しているかもしれません。
そこで、戦略を立てるときにはポジショニングマップを作成しましょう。ポジショニングマップを作れば、市場における自社の強みや弱み、競合の存在、競合に対して優位な点などが視覚化できます。
異なる分野のポジショニングマップ事例も紹介しますので、作り方だけでなく活用方法の参考になるでしょう。
ポジショニングマップとは
「ポジショニングマップ」とは、自社製品やサービスの市場におけるポジションを視覚的に示した図のこと。
異なる要素の縦軸と横軸からなるマップ上に自社と競合他社を配置することで、自社が市場ではどのような位置にいるのか明確にできます。
引用:キャククル「【図解付き】ポジショニングマップの作り方と縦軸・横軸の決め方を解説」
例えば、上記のポジショニングマップからは以下が把握できます。
- 同じ市場には、自社以外に4社存在している
- 似た強みを持つ競合は存在しない
- 競合A社が最も脅威となりそうだが、自社の方が圧倒的に優位な位置にいる
ポジショニングマップ作成の目的
ポジショニングマップの目的は、主に2つあります。
- 自社の競争優位性を探る
- 競合他社と差別ができ、優位性のあるポジションを見つける
したがって、以下のような場合にポジショニングマップを作成すると、有効な戦略が立てられるでしょう。
- 自社製品やサービスの優位性を明確にしたいとき
- マーケティング戦略を立てたい、または再考したいとき
ポジショニングマップの作り方(準備編)
ポジショニングマップを作成する前に、市場調査を実施し、市場での立ち位置を明確化しましょう。市場調査は「3C分析」を実施すると効果的です。
3C分析とは、以下3つの「C」を分析する方法。市場と競合、自社を照らし合わせることで、自社の強みを抽出や適切なターゲット設定が可能になります。
1.Customer(市場・顧客)
最初に市場と顧客を分析しましょう。市場や顧客の状況について知らなければ、比較ができないためです。
市場の分析:市場全体の状況や、競合の数、業界構造など
顧客:購買行動、購入プロセス、購買の意思決定者となる人物など
例えば、自社製品が以下のようなパソコンケースだとします。
- スタイリッシュなデザイン
- カラー展開は、ホワイト、ブラック、ピンク、ブルーの4色
- 機能性にも優れ、軽く持ち運びがしやすく高品質
- 値段は他社製品に比べると非常に高い
上記の特徴から、
「パソコンケースに軽さを求めるということは、パソコンをよく持ち運ぶシーンが多く、公共の交通機関を利用するため都市部に住んでいる可能性が高いだろう。」
「カラーバリエーションやデザインは女性向けだ」
「値段が高いので、ターゲットは高所得者」
「高所得者ならキャリア志向かもしれない。ある程度の収入を得るには若くても30代くらいだろう」
……のようにターゲット層がイメージできるでしょう。イメージできたターゲット層を以下のようにまとめると、ねらうべき人物像が見えてきます。
- 年齢、性別などの基本情報:30代以上の女性
- 居住地:都市部
- 学歴/職業:キャリア志向、業務で外回りや出張が多いためパソコンを良く持ち運ぶ
- 所得レベル:高所得
- 行動パターン:アクティブ
- 趣味・嗜好:流行に敏感、趣味は旅行。
2. Competitor(競合)
次に競合他社を分析しましょう。
競合が提供している製品やサービスの特徴を把握し、次の章で説明する「KBF(購買決定要因)」を洗い出します。
3. Company(自社)
最後に分析するのは自社について。
ブランド力や知名度、製品の性能など、競合に比べて優位なポイントを抽出します。製品の特長だけでなく、経営資源や営業規模などの強み・弱みも並べると、どのように差別化できるか見えてくるでしょう。
ポジショニングマップの作り方(実施編)
市場調査で自社の立ち位置が見えたら、ポジショニングマップを作成しましょう。作り方を5つのステップで解説します。
1.KBF(購買決定要因)の抽出
自社製品に対する顧客の一般的なKBF(購買決定要因)を抽出しましょう。KBF(Key Buying Factor)とは、顧客が購入製品を選ぶ決め手となる要素のこと。自社製品・サービスのKBFを明確にすれば、市場での自社の立ち位置を把握できます。
製品の使用感やデザインなど、人によって購入する決め手となる要素はさまざまですから、何がKBFなのかわからないかもしれません。
しかし、自社製品やサービスの特徴の中からターゲットにとって購買の決め手となる要素を書き出してみると、自社製品やサービスのKBFが見えてくるでしょう。
(例)パソコンケースの場合
価格:非常に高い
素材:高品質
カラーバリエーション:やや豊富
デザイン性の高さ:高い
機能性:高機能
軽さ:軽い
上記の場合、「デザイン性が高く高機能、軽い」KBFとなります。
2.競合他社製品のKBFを比較
次に、競合の製品やサービスのKBFも抽出して、自社と比較し評価しましょう。
以下のように、表でまとめると自社の強みと弱みが明確になります。
(例)パソコンケースKBFの比較表
KBF | 自社 | 競合A社 | 競合B社 | 競合C社 | 競合Y社 |
---|---|---|---|---|---|
価格の安さ | × | △ | ◎ | 〇 | ◎ |
素材の良さ | ◎ | △ | × | △ | ◎ |
カラーバリエーションの豊富さ | 〇 | ◎ | ◎ | × | × |
デザイン性の高さ | ◎ | ◎ | △ | × | ◎ |
機能性の高さ | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ | × |
軽さ | ◎ | △ | ◎ | 〇 | ◎ |
上記の表を見ると、自社製品は他社製品に比べて軽く、機能性が高く高品質、デザイン性も高いことがわかります。優位な立ち位置にいますが、リーズナブルさでは劣勢です。
3.ポジショニングマップの軸を設定
「ポジショニングマップの作り方【準備編】」で設定したターゲットにとって購買の決め手となる要素を二つ選定し、縦軸と横軸に設定します。
例えば、先に例を出したパソコンケースなら以下の二つが自社の強みとなるため、軸に設定すると良いでしょう。
横軸:軽さ
縦軸:デザイン性の高さ
軸の決め方は次の章で詳しく解説します。
4.ポジショニングマップの作成
軸を設定したらマップを作り、先に競合をプロットしましょう。競合を先に当てはめれば、競合が勝負しているポジションと空いているポジションが明確になります。自社の強みが発揮でき、空いているポジションや競合と勝負できそうなポジションを探せるでしょう。
先に作成した表をもとに「横軸:軽さ」と「縦軸:デザイン性」とプロットすると以下のようになります。
引用:SynapseConsulting「ポジショニングマップの作り方」
自社の特長である「デザイン性が高く、軽いパソコンケース」と同じ位置には、Y社がいることから、最も脅威となる競合はY社です。
5マーケティング施策で活用する
作成したポジショニングマップを参考に戦略を立てましょう。ポジショニングマップがあれば、自社の強みがわかり、どのような戦略を立てれば良いかがわかります。
例えば、先に作成したパソコンケースのポジショニングマップではY社が競合であることがわかりました。Y社に勝つには、デザイン性や軽さ以外の要素で勝負しなければなりません。
先に作成した表を見ると、「機能性の高さ」は、競合Y社よりも優位にいることがわかります。「カラーバリエーションの豊富さ」も競合A社とB社ほどではありませんが、Y社よりも豊富です。
そこで、以下の強みを活かした戦略を立てれば良いわけです。
- 機能性の高さ
- デザイン性
- 軽さ
Y社よりもカラーバリエーションが豊富な点も強みとしてアピールしても良いでしょう。
ポジショニングマップの軸の決め方は?
複数あるKBFのうち、どれをポジショニングマップの軸に設定したら良いか迷ってしまうかもしれません。ポジショニングマップの軸選びを誤ってしまうと、自社の強みや競合のいないブルーオーシャンを見逃してしまう可能性がありますから、適切な軸を決めたいところ。
次に述べるポイントを参考に軸を決めれば、ポジショニングマップの効果を最大化できるでしょう。
・2つの軸を独立させる
2つの軸に相互関係があると、ポジショニングマップに偏りがでてしまいますから、できるだけ相互関係のない独立した要素を軸として設定することが大切です。
例えば、パソコンケースの「品質」と「価格」は独立しているとはいえません。価格を上げて高品質の材料を使用すれば、品質が向上する可能性があるためです。
一方、パソコンケースの軽さと価格の高さは比例しないため、「軽さ」と「価格」なら、独立した要素といえます。
・ターゲット層が最重視するKBFの項目を選ぶ
ターゲットが購入するときに、何を基準に選ぶかを考慮しましょう。そのためには、ターゲット像が明確になっている必要があります。
例)自社製品が「パソコンケース」でターゲットが以下の場合
- 30代以上の女性
- キャリア志向のビジネスパーソン
- 高所得者
- 流行に敏感
- 高級志向
ターゲット層が最も重要視するKBFは以下が考えられます。
- 高品質
- 高いデザイン性
・自社の強みが活かせる要素
ポジショニングマップの目的の一つは競合との優位性を見つけ、差別化することです。
しかし、自社の強みが活かせない要素を軸に設定してしまうと、競合に勝てる戦略を立てるのが難しくなってしまいます。
例えば、パソコンケースの強みが「高品質」「高機能」なのに、軸を「価格」「高品質」にしてしまうと、「高機能」という強みを見逃してしまうでしょう。
ポジショニングマップ事例3選
最後にポジショニングマップの作成事例を紹介します。異なる業界のポジショニングマップをピックアップしましたので、自社の業界に近いものを参考にしてみてください。
1.ファストファッションブランド
引用:キャククル「ファッション・アパレルのポジショニングマップ事例。軸の決め方の参考に!」
流行をおさえつつも低価格で衣類を提供するファストファッションのポジショニングマップです。
こちらのポジショニングマップからは、ユニクロと無印良品、GAPが競合であることがわかります。
また、「トレンド重視」「手軽」と「トレンド重視」「品質重視」のポジションが空いていますね。この2つのポジションにビジネスチャンスがあるかもしれません。
2.ビール
引用:MarkeTRUNK「ポジショニングマップの作成方法~マーケティング戦略の競合との差別化」
最後に紹介するのは、ビールの味のポジショニングマップです。上記のポジショニングマップを見ると、4つのポジションすべてに4つのブランドが位置づけられています。
しかし、以前は「さわやかでキレがある」ポジションが空白でした。この領域を狙ったのがアサヒ・スーパードライ。競合がいない領域にポジションを確立し、爆発的ヒットにつながりました。
まとめ
ポジショニングマップを作成すると、競合の存在や自社の優位性や競合のいない領域が見つかります。自社製品やサービスを売り出す戦略を立てるなど、マーケティング施策に活用できるでしょう。
ポジショニングマップの作り方は、そう難しくはありません。しかし、細やかなターゲット設定や競合他社の分析が重要なポイントとなります。そのため、市場調査や競合他社のリサーチを綿密に行ってポジショニングマップを作成しましょう。