近年のコロナウイルスやウッドショックによって受注件数が減り、「売上が不安定で将来が怖い…」と悩まれている設計事務所も多いといえるでしょう。
さまざまなWebサイトで集客や人材不足が課題ともいわれていますが、むしろ正しい対策をすれば売上を伸ばすチャンスになります。
本記事では設計事務所の課題を4つピックアップし、将来的に強みへ変えていく戦略を考えてみました。
ピンチを活かして課題を解決する方法をお教えします。
設計事務所が抱える4つの課題
設計事務所を経営するうえで、かならず押さえておくべき課題は以下の4つです。
- 人口減少・空き家の増加
- AI技術による仕事の変化
- 人材・後継者不足
- 労働環境の悪化
仮に現状問題がない企業であっても、将来的に経営悪化や売上減少の原因となるかもしれません。
そのため課題をとおして「どのような対応をすべきか」を把握し、事前に対処しましょう。
1.人口減少・空き家の増加
最初に押さえておくべき課題は、建設業界全体で問題視されている人口減少や空き家の増加です。
日本では少子高齢化がすすみ、年々人口が減っています。そのため家を建てる人が少なくなり、将来的には新築住宅の市場が縮小するといえるでしょう。
また従来までであれば、住宅を親から子へ相続する流れが一般的です。
しかし現在では住宅を相続したものの管理ができていないことや、親が老人施設に入所した状態のまま亡くなってしまうケースが多く、空き家が増加傾向にあります。
空き家は放置すると犯罪の温床となることもあり、適切な対処が欠かせません。
したがって空き家の建て替えやリノベーションなど、今後はリフォーム市場が拡大すると考えられます。
2.AI技術による仕事の変化
近年ではIoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)が発達し、いままで時間をかけていた作業も自動化することが容易になりました。
設計事務所でも設計にかかわる作業・工程をAIに任せるケースが増えており、いままで人間が行ってきた業務を代替する時代に変化しています。
しかしAIだからといって作業すべてをまかなえるわけではなく、依頼主に合ったオリジナリティのある設計を行うことはできません。また商談時も感情や想いをくみとった提案は、AIにはできない領域です。
そのため今後はクリエイティブ性の高い仕事が求められるようになり、人間だからこそできる表現など、付加価値の有無が企業の生き残りを左右する要素になるでしょう。
3.人材・後継者不足
平成初期は設計事務所で働く人も多くいましたが、現代では求職者が減少したことで深刻な人材不足となっています。
どの仕事にも共通することではありますが、売上を高めるためには多くの仕事を獲得し、短い期間もしくは同時進行ですすめなければいけません。
しかし人材不足では業務を回せない状況となり、結果的に売上を伸ばせない悪循環に陥ってしまうでしょう。
また設計事務所では若年層の雇用が少なく、将来的な後継者不足も問題点です。
早い段階で対応しなければ企業を存続できない状況になるため、若者に向けた積極的な雇用活動や後継者となるスタッフの育成を意識することが今後の課題となります。
4.労働環境の悪化
建設業界では重層化下請け構造が多く、工務店や不動産会社の下請けとして仕事を受けている設計事務所も多いでしょう。
しかし下請けの状態では、
- 納期が短い
- 取引内容を変更できない
- いつ仕事が打ち切られるかわからない
といったデメリットがあり、労働環境が悪化しやすくなります。
特に建設業界は働き方改革が遅れているため、労働環境の改善は早期の対応が必要です。
仮に残業時間の基準値を超えてしまうと罰則を受けるため注意をしましょう。
また悪い労働環境は雇用促進にもつながらないため、残業時間の軽減や週休二日制など、最低限度の働きやすさを整えることが求められます。
設計事務所の経営課題と解決策
設計事務所の経営では、市場の縮小やAI技術による仕事の変化が課題として挙げられます。
そのため以下の解決策を意識し、将来的に需要が途絶えない企業を目指しましょう。
- 設計力を強化する
- リフォーム・建て替え工事に取り組む
ここでは設計事務所の経営課題と解決策について解説していきます。
設計力を強化する
今後、新規住宅市場の縮小やAI技術の発展により、設計事務所では自社独自の設計技術やブランド力が重視される時代になるでしょう。
そのため特徴のない設計事務所では顧客に選ばれず、最終的には淘汰されると予想されます。
このような市場で安定した経営を行うためには、自社の設計力を高めることが重要です。
設計事務所に依頼する顧客層は、
- 自分好みの住宅を設計したい
- オシャレなデザインの家に住みたい
といった願望があり、付加価値の高い住宅を求める傾向があります。
仮に低価格で一般的な住宅を求めるのであれば、建売住宅などを選ぶでしょう。
したがってデザイン性・間取りから自社の特徴やコンセプトを明確化し、他社にはない魅力を伝えることが大切です。
リフォーム・建て替え工事に取り組む
将来的に市場の拡大が予想されるリフォームや建て替え工事の設計に取り組むことで、需要のある市場でたたかえます。
どんなに魅力的な設計事務所であっても、顧客の少ない市場でたたかい続けることは非常に困難といえるでしょう。
そのため新規住宅で他社と競い合うより中古住宅市場に参入するほうが、少ない労力で仕事を獲得できる可能性が高まります。
また国家資格(一級建築士など)を取得し、建築士として仕事の幅を広げることもおすすめです。
設計以外にも空き家の解体現場で建築士は欠かせない存在となるため、どのような状況でも求められる存在になるでしょう。
リフォーム業の集客についてはこちらの記事をご覧ください。
設計事務所の集客課題と解決策
設計事務所の集客では下請けとして案件を受注し、自社の集客力を高められない・売上が増えないことが課題として挙げられます。
そのため下請けを脱却することや、集客の軸になるWebサイト運用に取り組むことが効果的な対策といえるでしょう。
ここでは設計事務所の集客課題と解決策について解説していきます。
元請けとして受注する
集客を行う際は、まず元請けとして受注することを意識しましょう。
目標とする売上額・集客数を達成するためには、「どの程度の案件数をこなすのか」を自社で調整する必要があります。
しかし下請けの状態ではスケジュールや案件数の調整ができず、いつまでも他社に依存した状態となるでしょう。
またBtoBをメインとしていた企業も個人を相手にするBtoCに切り替えることで、元請けとして仕事を獲得しやすくなります。受注数を大きく高めることも可能となり、自社の集客力を高めるためには非常に効果的です。
とはいえ無闇に営業をはじめても、すぐに集客ができるわけではありません。
どのような施策を軸にするのか、どのようなターゲットに向けてアプローチするのかを考えたうえで実行に移すようにしましょう。
仮に集客スタイルが確立していない場合には、次項で紹介するWebサイト運用に取り組むことをおすすめします。
Webサイトを運用する
集客と一口にいっても、顧客はすぐに問い合わせを行うわけではありません。
集客につなげるためには、以下のように複数のステップを踏む必要があります。
- 認知
- 関心
- 検索
- 行動
- 共有・共感
上記は「AISAS」と呼ばれる消費者の行動プロセスを示したものです。
通常であれば認知のために「Web広告」を出稿し、関心を高めるために「資料・無料コンテンツ」を配布するといった流れが一般的といえるでしょう。
しかしWebサイトでは上記の流れを一貫して行え、最終的には蓄積されたコンテンツによって自動の集客ツールとして活用できます。またオフライン・オンライン問わずにWebサイトは閲覧される機会が多く、企業の信頼度を左右する要素としても重要。
設計デザインや設計士としての想いを伝える手段としても適しているため、Webサイトは集客手法のなかでも必須といえるでしょう。
設計事務所の人材不足課題と解決策
人材不足では目先の業務量だけでなく、若年層のスタッフがいないことで将来的な経営危機にもつながります。
そのため長期的な目線をもちながら対策することが、今後の市場で生き残れるかの分かれ道になるといえるでしょう。
ここでは設計事務所の人材不足課題と解決策について解説していきます。
イメージアップを図る
人材不足を解決するためには、まず求職者から選ばれるように自社のイメージアップを図ることが重要です。
一般的に建設業界・設計事務所では長時間労働や休暇が少ないといったイメージを持たれやすく、近年では志望する人材が減少しています。
そのため企業ブランディングによって設計事務所で働く良さや憧れを伝え、求職者のイメージを変えることが現状の解決策といえるでしょう。
具体的には働いている様子などを積極的に発信し、設計士としての魅力を伝えることがポイントです。
求職者のなかには設計事務所について詳しく知らない人も多いため、
- 設計事務所の仕事内容
- 仕事をとおして得られるスキルや経験
- 将来的のキャリアパス
など、職業の良さをアピールしていきましょう。
若年層の教育に力を入れる
根本的な人材不足を改善するためには、若年層の雇用・教育が欠かせません。
よくある例として、以下の状況が挙げられます。
- 人材を雇用したものの、高齢者層のためすぐに退職の年齢になる
- 現状はスタッフがいるものの、10年後には現場で活躍できる人材がいない
たしかに経験者のほうが即戦力となるため、教育コストをかけずに活躍してもらえるでしょう。
しかしこのような状態では目先で課題を解消しても、5年後10年後には再度人材不足に陥ってしまいます。
結果的に教育体制が整わない状況が続き、気づけば全員が退職する年齢といったケースも少なくありません。
そのためいまから若年層の雇用や育成に力を入れ、将来的に活躍できる人材へと成長させることが課題解決には重要です。
設計事務所の労働環境課題と解決策
設計事務所では現在でもアナログ的思考が主軸となり、業務効率が悪い状況も多いです。
しかし無料で導入できるツールを活用するだけで効率性は大きく変化するため、人材不足の企業であっても労働環境を解決する手段になります。
ここでは設計事務所の労働環境課題と解決策について解説していきます。
BIMを導入する
BIMとは「Building Information Modeling」の略となり、建築物を設計するためのソフトを指します。
従来は図面で設計したものをCGによって3次元に組み立てる「CAD」の活用が一般的でした。
しかしCADでは作業途中で変更がある場合、図面製作からやり直す必要があり、時間や労力をかけなければいけません。
対してBIMははじめから3次元でモデルを作り、後から2次元の図面を作成する流れとなります。
また建築物に情報を追加することで、具体性の向上や完成物の情報共有に役立つ点が強みです。
このようにソフト一つをとっても新たな技術を活用することで効率性は格段に高まり、労働環境を大きく改善できます。
将来的にはAIによって事務作業が不要な時代も考えられるため、いかに作業効率を高めクリエイティブ性の高い仕事に取り組んでいくかが重要なポイントといえるでしょう。
業務をデジタル化する
近年のコロナウイルスをとおして、建築業界でもデジタル化が加速したといえます。
例えば、
- 取引先とのやり取りを電話やFAXで行っていたものがチャットツールに切り替わった
- 対面で商談していたものがオンラインビデオに変化した
など、身近な場面でもオンラインを活用する機会が増えたのではないでしょうか。
とはいえ建築業界ではまだデジタル化が遅れており、従来のアナログ的考えが基盤として定着しています。
しかし日々の業務面でデジタル化を図れれば、無駄な業務の減少や時間の短縮化につながり、効率性が大きく変化するでしょう。
前述のBMIも重要ではありますが、まずは日々の業務面からオンラインに移行し、デジタル活用の幅を広げることが重要です。
まとめ
本記事では設計事務所の課題を4つピックアップし、将来的に強みへ変えていく戦略を解説してきました。
設計事務所では大きく分けて、以下の課題が挙げられます。
- 経営
- 集客
- 営業
- 人材不足
- 労働環境
項目を単独で考えると複雑に感じられますが、それぞれ互換性が高いものもあり、すべてを一から取り組むわけではありません。
そのため自社にとって重要な点から改善し、徐々に将来的に市場で勝ち抜ける企業へ成長していきましょう。