設計事務所を開業・独立したての方であれば、「5年10年と続ける方法を知りたい…」と考えることも多いでしょう。
実際、設計事務所の独立は簡単なものの、すぐに廃業となるケースも少なくありません。
なぜなら設計技術だけでなく、適切な経営ノウハウや知識が必須だからです。
そこで本記事では設計事務所の経営で失敗する理由を考え、10年後も安定して経営するための戦略をまとめました。
現状の経営状況を改善する方法についてもお教えします。
設計事務所の経営とは?
最初に押さえておくべき点は、設計技術だけがあっても設計事務所として成功できないことです。
多くの方が下積み期間をとおして技術を身につけ、その後独立・開業を行う流れとなるでしょう。
しかし売上や資金面の知識がないまま経営を行うと、
- 黒字だけど資金が回せずに倒産してしまう
- 仕事量・スタッフ数の適切なバランスがとれない
など、さまざま問題が発生してしまいます。したがって設計事務所では「設計技術」と「経営」の両方が必要であると認識しておきましょう。
また経営といっても「今売り上げを伸ばすこと」だけでなく、10年先も生き残れるようにすることが重要です。
そのためにはWeb集客の知識や新しいビジネスモデルに取り組む姿勢が求められ、変化する時代のなかでニーズをしっかりと見極めることが欠かせません。
本記事は、設計事務所が市場で勝ち抜くための経営について考えてみましたので、ぜひ自社と比較しながら参考にしてください。
設計事務所が抱える経営課題5つ
まずは設計事務所が抱える経営課題について、以下の5つから確認していきましょう。
- コロナによる新規受注数の減少
- 建築ニーズの変化
- AI技術による仕事の変化
- 人材不足・働き方改革の遅れ
- デジタル化の遅れ
1.コロナによる新規受注数の減少
コロナウイルスの影響によって、住宅市場では「新設住宅着工戸数」が減少し、新規の受注を獲得しにくい状況になっています。
新設住宅着工戸数とは着工された新設住宅の件数を指し、国土交通省が毎月発表する指標のことです。
市場規模や需要度を図る際に重要となり「着工数の減少=需要の低下」と考えられます。
また日本では少子高齢化や人口減少がすすんでいることもあり、将来的には減少傾向が加速するといえるでしょう。
特に下請け企業は元請け次第で仕事量が変わり、真っ先に影響を受けやすい点がデメリットです。
そのため受注件数の減少や発注の打ち切りといった状況も多く、今後は自社で集客する体制や施策の取り組みが求められます。
2.建築ニーズの変化
コロナウイルスの影響は、受注件数だけではく顧客が求める建築物のニーズにも変化があります。
「注文住宅でこだわった/こだわりたい場所」
「コロナ禍だからこそこだわった/こだわりたい場所」
上記を見ていただくと、コロナ前はキッチンやリビング、そして導線を意識する人が多いとわかります。
しかしコロナ後は洗面やお手洗いといった衛生要素、そして仕事部屋として活用するワークスペースの割合が増加。
在宅勤務が増えたことで、仕事部屋の確保や以前より居心地の良い住宅が求められるようになったと考えられます。
したがって、
- 玄関近くに洗面台を配置
- リビングの一角にワークスペースを配置
など、いままでにはないニューノーマルな住宅が注目を集めています。
このように顧客のニーズは常に変化しているため、自社のこだわりだけではく、ニーズに対応できる設計を行うことが重要なポイントといえるでしょう。
3.AI技術による仕事の変化
AI技術が発達したことで、人間の手を使わずに効率良く設計を行う時代に変化しつつあります。
通常であれば、以下の流れが一般的です。
- 依頼主から要望をヒアリング
- 構造の計算や解析・見積もり作成
- 設計図作成
しかしAIを活用することで、以下のように丸ごと任せられるでしょう。
- AIが依頼から要望を聞き出す
- 構造・安全性を膨大なデータから解析
- 要望に沿った設計図作成
また将来的には素人でも簡易的に設計を行える状況が予想され、顧客が自ら設計することも考えられます。
したがって設計事務所では、クリエイティブ性やオリジナリティの高い設計業務を伸ばすことが需要を勝ち取るコツといえるでしょう。
4.人材不足・働き方改革の遅れ
近年、日本では働き方改革が施行されたものの、建設業界では対応が遅れており、いまだ労働環境が悪い企業も少なくありません。
働き方改革とは、時間外労働の上限規制や給与・社会保険の充実を目的とした取り組みのことです。
建設業界では昔から長時間労働や低賃金が問題視されており、他業界よりも離職率が高い傾向にあります。
また人材不足も重なり簡単には労働環境を改善できないなど、悪循環に陥っている状況。
このような状況が続けば企業として存続することが難しくなるため、今後は人材の確保と労働環境の改善が重要な課題となります。
5.デジタル化の遅れ
建設業界では業務面でのデジタル化も遅れており、昔ながらの方法で仕事を行っているケースが多いといえます。
例えば若手に向けた育成を行う際、多くの企業が先輩社員から教育する流れとなるでしょう。
しかし人材不足の状況では教育の時間を適切に設けられず、若手が独り立ちするまでに膨大な時間が必要となります。
対して教育動画や細かく定めたマニュアルを用意できれば、人を使わずに教育する体制が作れるでしょう。
このようにデジタル化をすすめることで、育成面や日々の業務面での効率化が図れ、結果的に労働環境の改善につながるなど幅広いメリットを得られます。
設計事務所の経営課題を解決する方法
つづいて設計事務所の経営課題を解決する方法について、以下の5つを解説していきます。
- Webサイトの運用
- 時代に合わせた事業展開
- 企業ブランディングの強化
- 労働環境の整備
- 業務のデジタル化
1.Webサイトの運用
安定した経営には自社の集客力を高めることが重要となり、Webサイトを運用することで自社の力で仕事を獲得できます。
とはいえ「Webサイトとかホームページって名刺みたいなものじゃないの?」と思われている方も多いでしょう。
設計事務所では自社サイトを運営している企業が少なく、Webサイト=集客ツールというイメージが少ないかもしれません。
しかし現代では顧客の大半がWeb上でリサーチを行うため、Webで情報を発信することが最も自社を知ってもらうきっかけとなります。
またWebサイトをとおして問い合わせにつながれば、自社が元請となる受注です。
そのためコロナ禍のような状況でも外部要因に左右されづらく、結果的に経営の安定化につながるでしょう。
2.時代に合わせた事業展開
コロナ禍のような顧客ニーズの変化、そして新規住宅市場の縮小を考えた場合、今後は時代に合わせた事業展開が重要になるでしょう。
仮にコロナ対応の住宅であれば、自然を感じるために中庭を作った設計や、テレワークとして活用できる作業部屋の設計などが挙げられます。
また新規住宅市場の縮小に対応する場合、中古住宅市場に目をつけることがポイントです。
なぜなら今後の日本では空き家が増加すると予想され、リフォーム業や改装工事の需要が高まると考えられるからです。このように「市場でいま求められているものは何か」を考えながら経営すると、長期的に依頼が絶えない設計事務所になるでしょう。
3.企業ブランディングの強化
現代では多くの商品・サービスがあり、設計事務所においても数え切れないほどの企業が存在します。
そのため顧客からすると各設計事務所の明確な違いがわからず、検討段階で「どの企業に依頼するのか」を悩むケースは多いといえるでしょう。
また今後はAIによってシンプルな設計はすべて代替され、特徴のない企業は生き残ることが難しくなると考えられます。
このような市場で競合に負けない企業になるためには、
- 自社だからこそできる設計デザインの提供
- 顧客が要望をしっかりとくみとった設計
などの付加価値を意識し、企業ブランディングを強化するようにしましょう。
どんなに優秀なAIが開発されても、依頼主の表情から要望を考えることはできません。
企業として確固たる立ち位置やクリエイティブ性の高い仕事を行うことで、替えのきかない存在になることが重要です。
4.労働環境の整備
経営の安定化には人材不足の解決が必須となるため、適切な労働環境を整備することで求職者を増やしていきましょう。
具体的には、
- 残業時間の削減
- 週休二日制の導入
- 在宅ワークの実施
- 有給休暇の積極的な消化
など、他業種が一般的となっている要素を取り入れることが重要です。
また可能であれば「自社独自の福利厚生や休暇制度」など、労働者が魅力に感じられる体制を整えると、さらに求職者から求められる企業になります。
5.業務のデジタル化
近年DX化(デジタルトランスフォーメーション化)という言葉が一般化しているように、どの企業においても業務のデジタル化は必須となります。
特に人材不足で悩んでいる企業であれば、業務を効率化することで少ないスタッフ数でも業務を回すことができ、問題解決につながる可能性も十分にあるでしょう。
例えばコンピューター上に3Dモデルを設計するBIMを活用することで、事前に2次元の設計書を作成する必要がなくなります。
またチャットワークツールやオンラインビデオツールを活用すれば、遠方の顧客へターゲットを広げることも可能です。
まずは日々の業務からデジタル化をすすめ、最終的には人材や資金管理などに取り入れることをおすすめします。
業務効率化ツールなどを紹介した記事がありますので参考にしてください。
設計事務所が成功するための経営戦略
根本的な経営問題を解決するためには、解決策への取り組みに加え、経営戦略を定めることが重要です。
設計事務所では以下の点を意識することで、長期的に市場で生き残れる企業となるでしょう。
- 積極的に先行投資を行う
- 人材育成に力を入れる
- プロに依頼する
1.積極的に先行投資を行う
設計事務所の経営で成功するために最も重視すべきことは、積極的に先行投資を行う意識です。
経営課題の解決で触れたとおり、経営の安定化にはWebサイト制作や労働環境の整備など、最初にまとまったお金を出費する必要があります。しかし経営でうまくいっていない状況では、「できるだけ出費をしたくない…」と考える経営者の方が大半といえるでしょう。
もちろん費用を抑えることは重要な要素となりますが、現状を変えなければ経営課題が解決することはありません。
そのため目先の利益ばかりを追うのではなく、長期目線で利益を伸ばす発想をもち、まずは新しいことへ挑戦していく姿勢が成功の秘訣といえます。
2.人材育成に力を入れる
長期的に売上の向上や経営規模が拡大している企業の共通点は、スタッフの人材育成に力を入れており、個人ではなく組織として成長し続けていることです。
建築業界で多い例として、現状はスタッフに恵まれているものの、若手スタッフが少なく将来的に中心となる人材不足に陥っているケースが挙げられます。
このような状況では現在の中心スタッフが退職した後、企業を存続することは非常に難しいです。
特に近年では設計士を目指す若年層が少なく、簡単には雇用をできない状況といえるでしょう。
そのため働きやすい環境や教育体制をしっかりと整え、10年15年後に活躍できる人材を育成することが重要になります。
3.プロに依頼する
自社だけで限界がある場合にはプロに依頼し、成功確率の高い施策に取り組むことも効果的です。
経営と一口にいっても、課題を挙げて具体的な解決策を考えると、集客や人材雇用など複数の要素が必要になります。
例えば集客を例にした場合、
- 市場調査
- 競合分析
- 施策の選定・実行
- 効果検証・改善
など、やるべきことは多岐にわたり、ノウハウ・知識がなければ最初からうまくいくことは難しいといえるでしょう。
対してプロへ依頼すれば、培ってきた知識や経験、そして膨大なデータから最も適した方法を導き出せます。
結果的に無駄な時間や費用の削減にもつながるため、早期に経営基盤の立て直しが可能です。
まとめ
本記事では設計事務所の経営で失敗する理由を考え、10年後も安定して経営するための戦略を解説してきました。
長期的に生き残る企業になるためには、設計・デザインなどの技術面だけでなく、経営に関する適切な対策が必要です。
特に近年ではコロナウイルスや少子高齢化など複数の問題があり、市場や顧客ニーズの変化が激しいといえます。
そのため目先の利益ばかりを追うのではなく、長期的な目線で計画を立て、安定的に経営する基盤を構築していきましょう。