設計事務所の利益率は10%前後といわれており、下回るようだと不安定な経営状況と考えられます。
同じ住宅業界でも工務店やハウスメーカーは30%前後のため、設計事務所は利益を出しにくいビジネスといえるでしょう。その理由として下請けであることや外注費用、諸経費にコストがかかりすぎているという点が挙げられます。
しかし経営改善を行うことで15%以上の利益率を目指すことが可能です。
そこで本記事では、設計事務所の利益率が低くなってしまう原因を探り、具体的な改善策を4つにまとめました。建設業界が将来的に利益を伸ばし続ける戦略をお教えします。
設計事務所の利益率とは?
そもそも設計事務所の利益とは「売上」から「経費」を引いた金額のことをいい、利益がプラスになれば黒字、利益がマイナスになれば赤字になります。
- 売上:サービス提供の対価として得るお金
- 経費:人件費・固定費など事務所の活動に必要なお金
そして利益率とは「売上に対する利益の割合」のことです。
利益率の求め方はこちら。
利益率=利益額 ÷ 売上額 × 100%
適正な利益率は業界・業種によって異なるため、まずは属する業界の平均を知り、自社が適切な数値であるかを確認するようにしましょう。
平均利益率は10%前後
設計事務所では工事費用の5〜10%を「設計管理費」とする企業が多く、平均利益率は10%前後になります。
建設業界は他業界と比べて利益率が低い傾向にあり、なかでも設計事務所は外注費用が多く、売上に対する経費が高いといえるでしょう。
設計事務所の経費例
- 外注費
- 人件費
- オフィス賃料
- 広告宣伝費
- 接待交際費
そのため同じ住宅市場でも、工務店やハウスメーカーでは利益率が以下のようになります。
- 工務店:25%前後
- ハウスメーカー:35%前後
そのため安定した経営を行うためには、いかに利益率を高めるかが最大の課題といっても過言ではありません。10年後も生き残る設計事務所になるためには、利益率を高める工夫をしていきましょう。
工務店の利益率はこちらも参考にしてください。
設計事務所が利益率を重視すべき理由
売上自体を把握していても、「利益率を普段から意識している」という企業は非常に少ないといえるでしょう。しかし現状の利益率を把握しなければ、気づかぬ間に赤字・倒産となる可能性もゼロではありません。
この項目では利益率の重要性について、以下の2点から解説していきます。
- 明確な利益額を把握するため
- 激務・薄利多売を避けるため
明確な利益額を把握するため
一般的に企業では売上額を重視することが多いものの、かならずしも売上がすべてではないといえます。
なぜなら、利益額は売上額に比例しないからです。
例えば前期の売上が1000万円、今期の売上が1500万円とした場合、利益率が10%であれば利益額は「100万円から150万円」に成長しています。
しかし前期と今期の売上が同じ1000万円だとしても、今期の利益率が20%に成長すれば、利益額は「100万円から200万円」になるでしょう。
このように売上額ばかりを追っていても、実際は利益が大して増えていないことや、減っているといった可能性も考えられます。
企業の成長・存続には利益を増やすことが必須です。
仮に利益がなければ「スタッフの給料を支払えない」など、適切な経営を行うことはできないでしょう。
そのため企業にとって利益額の把握は最重要項目となり、現状に対する正確な利益額を把握するには利益率の活用が不可欠となります。
激務・薄利多売を避けるため
利益率を重視することは、将来的に安定した経営を行ううえでも欠かせません。
仮に利益率が低いビジネスで売上を増やそうとすると、多くの仕事をこなす必要があり、結果的に「薄利多売」の状態になってしまいます。スタッフ数の少ない中小企業であれば、激務を強いるなど労働環境の悪化にもつながるでしょう。
また利益率が低い場合、原価高騰などの問題によって赤字になりやすく経営は安定しません。
実際に2020年は新型コロナウイルスの感染拡大、2021年にはウッドショックが起こったため、打撃を受けた設計事務所もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし利益率を把握し安定した利益を得ている企業であれば、このような状況でも問題なく経営できます。
「いつ同じようなことが起こるか」は予想できないため、まずは利益率を意識する習慣から身につけていきましょう。
利益率が低い設計事務所の特徴
この項目では利益率が低い設計事務所の特徴を挙げ、利益率を高められない原因を分析していきます。
自社状況と比較し、当てはまった場合には早期脱却を図りましょう。
- 下請けで受注している
- 価格競争で勝負している
下請けで受注している
利益率が低くなる原因として最も考えられることは、下請けで仕事を受注しているケースです。
開業して間もない・提示できる実績が少ないといった設計事務所の場合、ハウスメーカーや大手ゼネコンから依頼を引き受けることが一般的といえるでしょう。下請けは定期的に仕事を確保できるため、営業活動を行う必要がない点はメリットです。
しかし仲介業者に利益を抜かれるため単価が安くなりやすく、利益率の低い仕事しか回ってきません。
また取引先の言い値で受注する傾向が強く、自社で単価を上げるなど交渉する機会を得られない点が最大のデメリットです。
したがって利益率を高めるためには、下請けではなく「元請け」として仕事を受注することが重要になります。
価格競争で勝負している
現代のように多くの競合がいる場合、頑張って受注件数を増やそうとした結果、価格の引き下げでしか売れなくなくなるケースも少なくありません。
しかし価格競争には限度があり、もとから価格帯を安く設定している大手と真っ向から勝負しても勝ち目はないといえるでしょう。
なぜなら大手は潤沢な資金とスタッフによって社内体制を整え、大量生産を行うことで原価を上手に下げているからです。そのため中小企業が同様に価格を下げたとしても、利益だけが少なくなってしまう状態に陥ります。
このような状態では最終的に赤字経営になってしまうため、価格帯で勝負するのではなく、自社サービスの付加価値など別角度で強みを見出すことが重要です。
設計事務所の利益率を改善する方法4つ
つづいて利益率の改善方法について、以下の4つから解説していきます。
- 受注件数を増やす
- 販売単価を上げる
- 原価・固定費を下げる
- 原価管理を徹底する
自社の状況を考えながら、実行しやすい方法から取り組んでいきましょう。
1.受注件数を増やす
1つ目の方法は、受注件数を増やすことで売上額を高め、利益率を向上させる改善策です。
現状の受注件数に加えて新規顧客の獲得数が増えれば、利益額を大幅に伸ばせるでしょう。
しかし新規開拓は簡単ではなく、一般的には「既存顧客に商品を売る5倍のコストが必要」と言われているほどです。そのため「いかに営業コストを抑えて顧客を獲得するのか」が最大のポイントになります。
具体的には、マーケティングに取り組むことで自動で集客できる仕組みづくりを行いましょう。
マーケティング手法例
- Webサイト運用
- SEO対策
- Web広告
- SNS運用
Webサイトを活用すると、営業スタッフがいなくても24時間365日自動で集客できます。
長期的に集客効果を得られるため、利益率の安定化にもおすすめです。
2.販売単価を上げる
2つ目の方法は、販売単価を上げることで利益率を向上させる改善策です。
新規顧客の獲得は多少なりとも時間がかかりますが、販売単価の変更はすぐにでも実行できます。
ただし販売単価を上げる際は、以下の点に注意しなければいけません。
- 顧客が離れてしまう可能性
- 受注件数が減る可能性
急な価格帯の変更は顧客離れを引き起こすこともあり、慎重に判断することが求められます。なかには販売単価を上げたことで受注件数が減り、結果的に総売上高が下がる可能性もあるため、顧客理解を深めることが不可欠な要素です。
したがって「サービスの質を上げる」「サポート体制を強化する」など、何かしら付加価値を提供することに注力しましょう。
3.原価・固定費を下げる
3つ目の方法は、原価・固定費を下げることでコスト削減を行い、利益率を向上させる改善策です。
利益率を増やすうえでは最も確実性の高い方法となり、今までと同じ受注件数・売上額であっても利益率を高められる点が最大の特徴になります。
工事原価・固定費の対策例
- 資材の仕入れ金額を見直す
- 無駄な仕入れをなくす
- 外注人材を減らす
- 人件費を抑える
コストの大部分である人件費では、工事過程を見直すことで「無駄な残業時間の削減」や「現場あたりの人員削減」につながることも珍しくありません。
またAIやシステム導入も業務の効率化につながるため、積極的に取り入れていきましょう。
業務効率化ツールについては、以下を参考にしてください。
4.原価管理を徹底する
4つ目の方法は、原価管理を徹底し企業全体で利益率を意識することです。
経営層はもちろんのこと組織全体で利益額を把握し、目標となる利益率を設定することで、各スタッフが具体的な数値をもとに行動できます。営業スタッフであれば「いくら以上で販売するか」が明確化されるため、販売目標・売上目標の達成にもつながるでしょう。
またエクセルなどの無料ツールで管理することも可能ですが、効率性を求める場合は原価管理システムの活用をおすすめします。
原価管理システム例
基本的にデータを一元管理できるため、現場が多い・同時進行で案件をこなしている設計事務所は有効活用しましょう。
設計事務所の利益率を高める戦略4つ
複数の改善策を試しても利益率が上がらない場合、サービスの価値が低いなど根本的な問題が原因かもしれません。
この項目では利益率を高める戦略をまとめましたので、改善方法と合わせて実行していきましょう。
- ターゲットを絞ったアプローチ
- 元請け案件の受注
- デザイン力・設計力強化
- 企業ブランディングの強化
1.ターゲットを絞ったアプローチ
利益率が高いサービスを提供する際は、ターゲットを明確に絞り込んだアプローチを意識しましょう。
なぜならターゲットが定まっていない場合は自社の価値を伝えきれず、結果的に中途半端な状態となるからです。対して需要のある人・市場に向けてサービスを提供することで、多少価格が高くても受注件数や売上額を高められます。
例えば「最低限の設計で費用を安く抑えたい人」と「費用を気にせず自由な設計をしたい人」では、予算の範囲に大きな差があります。そのため後者へアプローチしなければ、そもそも高価格帯のサービスは売れません。
「情報収集の仕方」など顧客の特徴を考えることでアプローチ方法は選定できるため、まずはターゲット層の理解から深めていくことが重要です。
2.元請け案件の受注
サービスの価格帯を自由に設定するには、自社が元請けとなって仕事を獲得する必要があります。
下請けの状態では決められた価格でしか取引できないため、まずは「いかに元請け案件を受注できるのか」を意識するようにしましょう。
元請け案件を獲得する手段例はこちら。
- Webサイトを運用して問い合わせを集める
- Web広告を運用して問い合わせを集める
- Webセミナーを開催して自社サービスを紹介する
- マッチングサイトに登録する
一般消費者であれば比較的かんたんに仕事を獲得できるため、BtoCの営業・集客に切り替えることもおすすめです。
3.デザイン力・設計力強化
利益率が高い企業になるためには、デザイン力や設計力など根本的な自社サービスの価値を高めることが大切です。
利益率の改善方法でも触れましたが、仮にサービスの価値が低い状態で販売単価を上げてしまうと、顧客離れ・売上額の減少を引き起こす可能性が高くなります。
そのため他社との明確な差別化を意識し、独自の付加価値をアピールしていきましょう。
具体的には設計デザインのなかでも得意領域をつくるなど、自社の強みを打ち出すことが効果的です。
例えば「どんな設計にも対応します」より、「無垢材・自然素材に特化した設計が得意です」と伝えることで、消費者は専門性を感じます。専門性は企業への信頼にもつながるため、最終的に高価格帯であっても受注件数を伸ばせるでしょう。
4.企業ブランディングの強化
長期的に安定した利益を生み出す企業は、ブランディングによって自社イメージを確立している特徴があります。
ブランドイメージ例
- 品質・性能の高さ
- デザイン性・設計力
- 体験によって得られる喜び
仮に設計事務所であれば「〇〇設計=近未来的な長屋住宅のデザイン」など、企業名だけで具体的なイメージをできる状態が理想です。
ブランディング力が高ければ価格に関係なく自社を選んでくれるファンが増え、価格競争に巻き込まれない状態がつくれます。そのため不景気などの影響を受けづらく、5年10年と安定した経営を実現できるでしょう。
ただしブランディングには長期的な対策が必須となるため、計画的に取り組むことが大切です。
まとめ
本記事では利益率が低い設計事務所の特徴を挙げ、具体的な改善策を4つ解説してきました。
価格設定のできない下請け企業は利益を上げにくく、激務な労働環境や薄利多売の経営戦略に陥りやすくなります。
このような状態は経営状況が悪化しやすいため、早期の下請け脱却を目指しましょう。
また利益率を高める際は根本的な付加価値が欠かせません。
そのため表面上の価格を単に上げるような改善は避け、提供するサービスと価格が釣り合うことを意識することが大切です。